【視察レポート】小俣幼児生活団から学ぶ「自由と責任を育む保育」

栃木県足利市に、「奇跡の保育園」と呼ばれる保育園があるのをご存知でしょうか。正式名称は「小俣幼児生活団」という認可保育園さんで、「朝イチ」や「バースデイ」などのメディアや雑誌にもたびたび取り上げられている園さんです。

今年も、同じ想いを持った保育仲間の方々と共に視察に行ってまいりました。

園の方針と特徴

皆さんは、「子どもに自由を与えたら、どうなるのか?」と考えたことはありますか?

もしかしたら日本の多くの保育現場では、安全の確保や集団生活のルールを優先するあまり、大人が子どもたちにあれこれ指示を出す場面が多くなってしまっているのが現状かもしれません。しかし、ここにはその常識を覆すような環境がありました。

この園の特徴としてまず驚いたのは、3000坪以上の敷地と広大な園庭です!!

池や梅林もあり、ハイキングが楽しめてしまう。そんな山のような広大な園庭であるのにも関わらず、何と子どもたちの立ち入り禁止の場所は一切ないのだそうです。

また、

  • 0歳から4歳まではクラス全体で同じことをする時間がない
  • お昼寝は強要しない
  • 2歳児から給食はバイキング形式
  • ルールは園児と一緒に話し合って決める
  • 園児に指示も命令も強要もしない

という、、、一見すると「本当に保育が成り立つの?」と疑問を抱くような独自の保育方針があるようです。

しかし実際に視察をしてみると、子どもたちはみんな驚くほど落ち着いていて、秩序が保たれていました。その理由の一つが、園長の大川真先生が長年学ばれている「アドラー心理学」と「モンテッソーリ教育」の考え方に基づく保育の実践のようです。

見学レポート

①子どもが自ら選択できる環境

0歳児クラスを見学させて頂いた時。靴下を履いて動き回っている乳児さんがいました。一般的な園だと「滑って危ない!お部屋の中では靴下を脱ぐよ!」なんて大人の声が入りそうな場面ですね。しかし、この園では靴下を脱がせようとする大人はいませんでした。それで滑って転ぶこともありますが、脱ぐか脱がないか、決めるのは子ども。外遊びの時も、ジャケットを着るかどうかを決めるのは子ども自身。0歳児クラスの時から、一人一人の子どもたちの意思が尊重されている様子が伺えました。


(こちらは乳児棟。まるで一軒のお家のようです。0歳児クラスと1歳児クラスがありました)


(乳児さん専用のお庭です。)

もちろん遊びや活動もそうです。登園してからお帰りの時間まで、何をして遊ぶのもかを決めるのも子どもたち。
しかし、年長さんだけは、1日1時間だけクラスのみんなで一緒に活動する設定保育の時間があるそうです(その頃になるとみんなで何かしたいという心が育っているため)
ただ、その活動の内容を決めるのもやはり子どもたち。保育士と子どもたちで話し合って決めるのだそう。


(1日1回、年長さんの活動はこちらの建物で行われているそう。なんとこちらの建物は江戸時代から残っている築170年の建物で固有形文化財にもなっているのだそうです)


(こちらは幼児棟。年少から年長までの縦割りクラスで、1クラス1棟。お家のように子どもたちが安心して過ごせる環境が整えられていました。)

また、2歳児クラスから給食はバイキング形式です。2歳児さんも、自分の分は自分でよそっていました。食べる物も食べる量も、子どもたちが自分で決めることができるのだそう。食べたくないものを強制されることもありません。

②経験からの学びを重視

乳児クラスの部屋と部屋の間にあった小さな段差。大人の目には「転ぶかもしれない危ない場所」に映るかもしれません。しかし、それを完全に取り除いてしまったら、子どもは危ないところをまたいで歩く、どうやって身体を使えばよいかを学ぶ機会を失ってしまいます。

安全を最優先に考えることは勿論大切ですが、過度に管理しすぎると、「何もさせない」ことが正解になってしまう。だからこそ、この園では、大きな事故につながるリスクには細心の注意を払いつつも、子どもたちが経験を通して学び、自分で考え、工夫する機会を大切にしているようです。

この考え方は、人間関係の学びにも共通しているなと感じました。子ども同士のトラブルは、大人にとってはつい介入したくなる場面。しかし、意見の食い違いや衝突を経験することで、子どもたちは相手の気持ちを知り、折り合いをつける力を身につけていきます。

もし、大人がすべてを先回りして綺麗に解決してしまったら、子どもは自分で問題を乗り越える力を育むことができません。ちょっとしたケンカや行き違いも、成長のために必要な経験なのです。

だからこそ、この園では「経験からの学び」を何より大切にし、子どもたちが自ら考え、試し、失敗しながらも成長していく機会を守り続けています。

この環境こそが、子どもたちに本当の「生きる力」を育むのだと、改めて感じさせられました。

③1人1人のペースを尊重する

園庭でもあるお山にて。お山の頂上までの1歳児クラスのお子さんたちのお散歩の場面を見せてもらいました。


(ここはほんの入り口。この先に頂上までのハイキングコースがあります)

この時のお散歩の様子はとても印象的で、一般的な保育園のお散歩のイメージとは全く異なりました。通常、お散歩といえば、大人や友達と手を繋いで歩く、あちこち触らない、拾わない、前の友達と距離をあけないように歩くーーといったルールを守るために、大人が頻繁に声をかけながら誘導する場面がイメージされます。

しかしこの園ではそうした決まりはなく、手を繋ぐこともなく、子どもたちは両手、両足、全身を使って、バランスを取りながら1人1人が歩くことをめいいっぱい楽しんでいる姿がありました。大人でも少し大変に感じるような傾斜だったのですが、1歳児でもこんな傾斜の山を登山できちゃうんだ!と驚きました。

当然、歩くペースは1人1人お子さんによって様々です。真っ先に頂上へ駆け上がる子もいれば、道端の枝や木の実に興味を持ち立ち止まる子、途中で座って休憩をしながら登る子もいました。しかし、保育者は誰一人として「みんなもう行っちゃったよ!もっとスピードアップして!」と急かすことはありません。それぞれのペースを大切にし、子どもが自分の力で進むことを見守っていました。

子どもが自分のペースで、自分の力で進むことを大人が後ろから見守る。このお散歩の光景を見て、「これこそが、子育てや保育の本来あるべき姿なのではないか」と深く感動しました。

④子どもの自然な秩序が引き出されていた理由

アドラー心理学では「権利と責任」、モンテッソーリ教育では「自由と規律」という言葉が使われています(意味はほぼ同じですが)。この園では「自由と責任」という言葉を掲げ、子どもたちの中にそれを育むことを保育の方針として大切にしているようです。

登園から降園まで、これほど自由が保障されているにもかかわらず、子どもたちは驚くほど落ち着いていました。大人が指示を出したり、細かく声をかけなくても、一人で勝手にお散歩のルートを外れて危ない場所へ行ってしまう子はいません。また、順番を待つ場面では、誰に言われることなく自然と列を作り、秩序が保たれていました。子どもたちが平和で穏やかに過ごしている光景に、まさに「自由と責任」が共存していることを実感しました。

この秘訣は何なのか、園長先生に伺ったところ、「人類への信頼」という言葉が返ってきました。

人間にはもともと「協力し合う本能」があります。モンテッソーリ教育でも「秩序を求める傾向」は子どもの内面に備わっていると考えますが、それは大人が強制して守らせるものではなく、子ども自身の中に自然と存在しているもの。それを信頼し、引き出すことが大切なのだと改めて感じました。

例えば、ゴミが落ちている場面。

  • ある子は「ごみを拾っている自分を見てくれる大人がいるから」捨てる。
  • またある子は「拾わないと叱られると思ったから」捨てる。
  • そして別の子は「部屋をきれいにした方が良いと思ったから」捨てる。

私たちが目指すのは、きっと最後の子のような姿ですよね。

園長先生は、それを育むためには、子どもの内側から湧き上がる信念や意思を尊重することが重要だとおっしゃられていました。そのためには0歳の時からその子の意志を尊重し、1人の人格者として対等に関わり続けることが大切なのですね。

(お仲間と視察へ。真ん中が園長の大川真先生。卒園式前のお忙しい時期に、お話の時間を作ってくださり感謝です。)

最後に

保育士の皆さんが子どもたちと関わる上で、特に大切にしていることを尋ねた際、園長先生から印象的なお言葉をいただきました。その言葉がとてもわかりやすく、心に響いたので、ここでシェアさせて頂きます。

「うちには警察署も裁判所もありません。子どもに何かあった時に手当をしてくれる赤十字社があるのと、カウンセラーがたくさんいるだけです。」

警察官のようにルール違反を取り締まったり、裁判官のように「どちらが悪いか」をジャッジする存在はいないということですね。この言葉を聞いて、改めて気づかされました。

大人は、子どもを「正しく指導しなければ」と力む必要はないのです。子ども同士のトラブルを綺麗に解決しようとしたり、子どもを無理に誘導しようとする必要もありません。大切なのは、子どもが自分で気づき、学び、成長すること。
だからこそ大人は、指導者ではなく、子どもの心に寄り添い、共感し、受け止めるカウンセラーであればいい。

実際に視察をした時も、先生方は常に1人1人の子どもに「どうしたの?」「どうしたかった?」とまずは子どもの気持ちを聴くことに徹しているような印象を受けました。

この考え方に触れ、私自身も保育者として勇気をもらいました。そして、私が研修活動を通して大切にしている「子どもを尊重し、共感の心で関わることで、叱らなくても保育はできる」というミッションとも深く通じるものがありました。

この価値観をより多くの保育士さんに広め、一緒に実践していきたい——そう強く感じた視察となりました。

小俣幼児生活団のホームページはこちらです↓

https://omatayouji.org/

これからも保育士さんに有益な情報を発信していきます

今回の視察を通して、保育の在り方を改めて考えさせられました。

「子どもに信頼を寄せる」「子どもの選択を尊重する」と言葉で言うのは簡単ですが、実践するには大人の側の意識改革!マインドチェンジが必要です。

 

子育てと保育の学び舎cocoroneでは、不適切保育を防ぎ、叱らない保育を実現するために、アドラー心理学を活かした言葉がけ研修など、保育士さんたちのスキルアップと現場の課題解決に役立つ様々な研修をご提供しております。東京都内や神奈川県横浜市や川崎市など近隣地域の保育園さんをはじめ、オンラインでも多数ご依頼を頂いております。研修の資料請求は下記をご覧ください。

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