場面緘黙の園児の場合~発表会でのサポートと支援方法~

場面緘黙のお子さんの対応とは?

以前、保育士研修の時に保育士さんからこんな質問をいただいたことがあります。

「場面緘黙のようなお子さんがいるのですが、発表会の練習をしていて、みんなと同じように演技をして欲しいのに、なかなかみんなと同じように演技が出来ません。どんな声がけをすればやってくれるようになりますか?」

発表会の準備は、子どもたちにとって大きな成長の機会です。また、保護者にとっても、我が子の成長を目の当たりにできる特別な場であり、保育士さんにとってはその期待に応えるための責任とやりがいを感じる場面でもあります。

しかし、「みんなと同じように演技をする」という目標が、場面緘黙の子どもにとっては大きなプレッシャーとなることがあります。特性を抱える子どもたちにとって、発表会が「苦手を乗り越える場」ではなく、「その子らしく輝ける場」になるように支援をすることが大切です。

では、どのような支援が有効なのでしょうか?まずは場面緘黙の特徴を理解し、対応方法や考え方など具体的に見ていきましょう。

1.場面緘黙とは?

特定の場面や状況で話す事が出来なくなる状態のことを指します。家庭では普通に話せるのに、幼稚園や保育園、知らない人の前では一言も話せないといったケースもあります。

・家庭や親しい人の前では普通に話せる

・幼稚園や保育園、学校など社会的な場面では話すことが極端に難しい

・些細な事でも緊張しやすい、不安を感じやすい傾向がある

・シャイや内気な性格、人見知りなどとは異なり、自分では「話したい」と思っていてもなかなか「話せない」

2. 無理に話させようとしない

場面緘黙の子どもは、「話したくない」のではなく、「話したいけど話せない」という心理状態にあります。

なので、先ずは周囲がそれを理解してあげることが大切です。「頑張って話してみよう」といったプレッシャーをかけることは、かえって不安を強める結果になります。間違っても、「なんで話さないの?」「お口で言いなさい」なんて圧をかけるような事は絶対に言わないようにしましょう。ますます声を出せなくなります。

「ドキドキしてしまう」という子どもの気持ちに寄り添いながら、「無理に話さなくても大丈夫だよ」という安心感を伝えましょう。

3.徹底的に安心感を与える

子どもたちが自分の力を発揮するためには、やはり「安心感」が何よりも重要です。特に場面緘黙などの特性のあるお子さんにとっては安心感は全ての土台になります。不安や緊張で固まってしまう状況では、新しいことに挑戦するどころか、普段出来ることすら出来なくなってしまいます。

大人の視点で見ると「これくらい出来て当たり前」と思うことでも、子どもにとっては大きな壁に感じることはたくさんあります。その壁を乗り越えるために必要なのは、「頑張って!」というプレッシャーではなく「ありのままで大丈夫」という安心感です。

安心感があるからこそ、子どもはその場にいることができ、少しずつ挑戦する力を育てていけるのです。発表会などの練習の場でも、「その子がその場にいられるだけで素晴らしい」と先ずは認めてあげましょう。周りの大人がその姿を温かく見守ることで、子どもたちは自信を持ち始めます。

徹底的に安心感を与えること。それは、子どもに「失敗しても大丈夫」「そのままのあなたでいい」というメッセージを伝えることです。

4. 子どもの発達レベルや特性に合わせてグループ分けをする

発表会や劇などの活動で「みんなと同じ演技」を目指すと、どうしても「できる子」と「できない子」が出てきてしまいます。しかし、例え同じ学年や年齢であっても、子どもたちの発達レベルや特性はそれぞれ異なります。
全員に同じ役割を求めるのではなく、発達レベルや特性に応じてグループを分けたり、役割を柔軟に調整したりすることが大切です。
演技内容も、子どもの発達レベルや特性に合わせるなど、「できること」を基準にしたグループ分けは、子どもたち一人ひとりにとって安心感を生み出し、その子に合った役割を見つけることができ、「みんなができる」成功体験へとつなげることができます。

柔軟な役割設定がもたらす効果

場面緘黙の子どもに「話してみよう」とプレッシャーをかけるのではなく、その子が「これならできる」と思える役割を提案することが成功への鍵です。発表会では、以下のような柔軟な対応が効果的です。

  • 台詞のない役を提案する
    たとえば、小道具を運ぶ役や簡単な動作だけの役を設定することで、子どもが負担を感じずに参加できるようにします。
  • 台詞の一部だけを担当する
    すべてをこなすのではなく、台詞の一言だけを担当するなど、成功しやすい形に分割します。
  • ナレーションや録音の利用
    どうしても声を出すのが難しい場合は、ナレーションを録音して本人が動作だけで参加する方法もあります。

これらの方法により緊張や不安を抱えやすい子どもでも、子ども自身が「できそう」と思える範囲で成功体験を積み重ねることができます。

子どもたちの特性に合わせた柔軟な対応を取り入れることで、「できる子とできない子」という区別がなくなり、「みんなが成功できる発表会」を実現できます。特に場面緘黙の子どもにとっては、無理に話させようとせず、自分のペースで取り組むことができる環境が大切です。

どんな子どもも安心して挑戦できる環境を整えるために、まずはその子の「できること」に目を向け、可能性を引き出していきましょう。

5.大人の期待値を下げる

発表会などの場面で舞台に立つことは、場面緘黙の子どもにとって想像以上に大きな挑戦です。例え演技やセリフが出来なかったとしても、その場にいることだけで、子どもにとってはすでに「大きな成功」なのです。

発表会の準備を進める中で、「なんとかみんなと同じようにやらせたい」「保護者の期待に応えなければ」とプレッシャーを感じることは自然なことですが、少し肩の力を抜いてみましょう。子どもたちにとっての「成功」は大人の理想の姿だけではないはずです。

例えば、その子がステージに上がっているだけでも、みんなと同じ空間にいられるだけでも、その子にとっては成長の一歩です。

発表会で大切なのは、大人が思い描く理想の舞台を完成させる事ではなく、「その子が自分なりに輝ける場」を作ってあげることだと思います。

子どもたちの「今」を信じ、小さな成長に目を向けて、一緒に喜びを感じられる場にしていけるといいですね。

6.答えは子ども自身の中にある

実は幼稚園に通っている筆者の息子も、年少さんの1学期の頃、場面緘黙でした。家では元気いっぱいなのですが、家庭から一歩外に出ると固まってしまい声を出せなくなるので、随分心配したものです。先生にも口パクで伝える日々でした。

しかし、有難いことに無理に話させようとする大人も、それを笑うお友達もいませんでした。そんな静かで優しいクラスの中でじっくりと安心感を育んでいったのかもしれません。

ある日、お集まりの場面の時に「トイレにいってきます!」と自分から声を発したそうです。先生からエピソードを聞いて驚いたのはクラスのお友達の対応でした。息子が驚かないよう、その場では何も反応せず、息子が教室を出た後にそっと「喋ったね!」と静かに喜び合ってくれたそうなのです。息子もすっかり安心し、その後少しずつ声を出すことに挑戦できるようになっていきました。

息子も、当時は緘黙が大きな壁でしたが、今では人前で話すことができるようになりました。この経験から、「人の成長はわからないものだ」とつくづく感じます。しかし、確実に言えることがあります。

それは、その子がどんなペースやタイミングで、どんなプロセスで成長していくのか、それは大人が決めるものではないということです。その子自身の中に成長への答えがあります。私たち大人はその芽を信じ、焦らず待ち、温かく見守ることが大切です。

子どものペースを尊重した保育を

場面緘黙の子どもに限らず、一人ひとりの特性やペースに寄り添うことが、自己肯定感を育てる鍵となります。「みんなと同じことをさせる」ことを目標にするのではなく、「その子なりの一歩を応援する」ことをやってみませんか?

保育士さんが現場で役立つ情報を、これからも発信していきます。「保育士園内研修」「子どもを尊重する保育」など、実践的なテーマをお届けしますので、ぜひ次回もお楽しみに!

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